逮捕から起訴まで最長23日。その間に弁護士は何ができるのか ―『九条の大罪』で読む刑事手続き
勾留は10日、延長で最大20日。当番弁護士と国選弁護人の違いまで、現実の流れを整理する
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- 公開日 2026.10.24/
- 読了 8分
2027年1月8日に公開される『映画 九条の大罪』では、弁護士の九条間人が逮捕される展開になる、と報じられています。いつも依頼人の側に立っていた人物が、今度は取り調べを受ける側になります。
映画の中身は公開前なので、この記事では踏み込まず、現実の刑事手続きで「逮捕されてから起訴されるまで」に何が起きるのかを整理します。
九条の仕事場がどういう時間の中にあるのか、見えやすくなるはずです。
作品のネタバレはありません。映画については、公式発表で伝えられている範囲しか触れません。
逮捕から72時間: 警察と検察で時計が回る
人が逮捕されると、まず時計が動きます。刑事訴訟法には、次の順序が定められています。
- 警察は、逮捕から48時間以内に、事件と身柄を検察官に送ります
- 検察官は、受け取ってから24時間以内、かつ逮捕から数えて72時間以内に、裁判官に「勾留」を請求するか、釈放するかを決めます
つまり最初の3日間、本人は警察署の留置場で取り調べを受けながら、この判断を待つことになります。
ここで勾留が認められなければ、釈放です。
勾留は10日。延長されて最大20日
裁判官が勾留を認めると、原則10日間、身柄が拘束されます。やむを得ない事情があれば、さらに最大10日の延長ができるので、合わせて最長20日。
逮捕から勾留までの3日と、勾留の20日を足すと、起訴されるまでの拘束は最長23日。これが「逮捕から起訴まで最長23日」の中身です。
23日というのは、検察が「起訴するかしないか」を決める猶予でもあります。この間に十分な証拠が集まらなければ、不起訴や釈放になります。
逆に言えば、本人はその間ずっと、自由に外と連絡できない場所に置かれます。
会社も家族もある人にとっては、その3週間はそれ自体が大きな罰のようなものでしょう。
弁護士は、いつから、どう関われるのか
では、その間に弁護士は何ができるのでしょうか。
ここが、九条の仕事に近いところです。
当番弁護士は、逮捕された人が呼べる、弁護士会が運営する制度です。初回は無料で、相談できるのは基本的に1回きりです。
アドバイスはもらえますが、継続して弁護してもらうには、あらためて弁護人として選ぶ必要があります。
私選弁護人は、自分でお金を払って選ぶ弁護士です。逮捕されてすぐの段階から頼めるので、九条のように依頼人から直接指名される弁護士は、この形で動くことになります。
国選弁護人は、お金がない人のために、国が費用を負担して付ける弁護人です。
ここに大事な落とし穴があって、被疑者の場合、国選弁護人が付くのは勾留が決まった後から。逮捕から勾留までの最初の数日は、国選では間に合いません。
なお、2018年6月1日の法改正で、勾留された被疑者は、罪名を問わず国選弁護人を請求できるようになりました。
それ以前は、一定の重い罪(死刑・無期、または長期3年を超える懲役・禁錮にあたる事件など)に限られていました。
請求には資力の要件があり、法律事務所の解説では、資力が50万円以上ある場合は、国選を請求する前に、弁護士会へ私選弁護人の選任を申し出ておく必要があります(刑事訴訟法37条の3)。基準は変わることがあるので、実際の手続きは法テラスや弁護士会で確認してください。
弁護人にしかできないこともあります。
身柄を拘束された本人と、警察官の立会いなしで会って話す「接見」です。
家族でも会えない期間(接見禁止)がつくことはありますが、弁護人との接見は、原則として制限されません。
「勾留されるかどうか」が、最初の山場
弁護士向けの解説では、勾留されると起訴される可能性が高くなるため、勾留を避ける活動が重要だと説明されています。逮捕から勾留請求までの72時間が、最初の勝負どころというわけです。
その72時間に、依頼人の弁護人が何をするか。
本人と会って事実関係を聞き、家族や職場に連絡して、逃げも隠れもしない状況を整えます。検察官や裁判官には、勾留の必要がないと伝えます。
九条のような弁護士にとっては、依頼人が逮捕された日の夜から仕事が始まる、ということです。
取り調べと黙秘権: 弁護士が最初に伝えること
勾留の間、本人は連日のように取り調べを受けます。このとき、本人を守る最大の武器が黙秘権です。憲法38条1項は、自己に不利益な供述を強要されないと定めています。
刑事訴訟法も、取り調べの前に、警察官や検察官が「言いたくないことは言わなくてよい」と告げなければならないとしています。
とはいえ、知っていることと、実際に取調室で貫けることは別です。机の向こうには、何日も一人で聞き続ける捜査官がいます。
弁護人の役目の一つは、どこまで話し、どこから黙るかを、依頼人と一緒に考えること。作った調書は、後から裁判で使われるからです。
だからこそ、弁護人が毎日のように通って接見する意味が出てきます。
23日が終わった後は
検察官が起訴すると、被疑者は「被告人」になります。身柄の拘束が続く場合でも、起訴の後なら保釈を請求できます。保釈は、起訴前の被疑者の段階にはない制度です。
つまり起訴前の23日間は、保釈というカードを使えない時間でもあります。だから勾留を避けること、勾留の場面で争うことの意味が大きくなります。
不起訴になれば、そこで手続きは終わりです。
起訴するか、しないか。その判断が、弁護士と依頼人が最も時間に追われる23日の終点に置かれています。
九条の「線」は、この23日の中にある
以前、九条のモデルをめぐる記事で、弁護士の職務基本規程にある「真実を尊重する義務」と「最善の弁護をする義務」の、ぶつかる線について書きました。
その線は、実際には法廷よりも、この23日間のほうで試される場面が多いのだと思います。
取り調べで黙秘を勧めるか。証拠をどう扱うか。依頼人の家族に何を伝えるか。裁判官の前に出る前に、決めなければいけないことが山ほどあります。
逮捕される側に回った九条が、その時間をどう過ごすのか。
公開前の映画について軽々しく予想するのはやめておきますが、現実の手続きを知っておくと、「あと何日ある」という数字の重みは少し違って聞こえるはずです。
逮捕から起訴までの流れを整理すると
逮捕後、警察は48時間以内、検察は24時間以内(逮捕から通算72時間以内)に動きます。
勾留は10日、延長で最大20日で、逮捕から起訴まで、合わせて最長23日。国選弁護人が付くのは勾留後なので、最初の数日は、当番弁護士か私選弁護人が頼りになります。
弁護人は、立会いなしで本人と会えます。
作品の人物関係やあらすじは、ネタバレなしのキャスト・あらすじ記事にまとめています。
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